経営者の方に多くの経営課題を聞く中で、人事評価がうまくいってないという悩みをよく聞きます。その中で、人事制度を変えて適切な制度にしたいとの要望をたくさんいただきます。

過去、振り返ると約70社程度のお客様の人事制度を設計してきた中で、たくさんの失敗を目にしてきました。恥ずかしい話しですが、私自身も振り返ると失敗してしまったというプロジェクトもあります。

その経験を踏まえ、「人事制度の構築がなぜ失敗するのか?」の本質に迫ってまいりたいと思います。

 

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まずは私の失敗を交えてある会社の話しをさせていただきます。

社長から「社員にもっと成果にこだわってもらう」ための人事制度に変えたいと要望をいただきました。細かく話を聞くと、成果を出しても、出さなくても評価にあまり差がつかないと仰ってました。

そこで、人事評価制度を変えましょうと提案をさせていただきました。
社長と一緒に考えた具体的なシナリオは以下の通りです。

①能力中心の人事評価制度から成果を中心とした、人事評価制度に変更する。
②変更した人事評価制度で評価をすれば、成果を上げた人は評価が高くなり、給与・賞与が上がる
③それを見たやる気のなかった社員が、成果にこだわりだし、頑張って成果を出しくれる
④③の社員が増えることで、会社全体として売上がアップする

このシナリオを実現するために、成果のウエイトが高い制度設計をしました。
これでシナリオ実現に向けて万全だと思っていました。

矢先に問題は勃発しました。

まだ制度設計をして、仮運用1年目の時でした。
以下のような問題が社員の不満として出てきました。

・目標の達成度で「成果」の測定をするが、各自の目標の難易度やレベルがバラバラで不公平である。
・職種が複数あって、職種間で、成果の難易度のバランスが取れてなく、不公平である。
・施策が短期志向になってしまい、今までやっていた長期的な取り組みが実行されなくなった。
・成果に直結しない仕事をやらなくなり、協力して仕事をやらない人が多くなった。

成果のウエイトを高くした結果、全員が成果を上げようという気持ちになると思っていたのですが、社員が不公平感を感じたり、短期志向になってしまい、不満が爆発したのです。

成果に報いる制度を作ることで、社員にやる気になってもらい、頑張ってもらおうと考えていたのですが、逆に社員のやる気を落とす制度となってしまいました。

この経験は私の中でも大きな出来事として残り、「やる気の向上を目的にして人事制度を変更してはならない」と胸に刻まれました。モチベーション理論の権威でもあるアメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグ氏はこのような理論を提唱しています。そこでは人間が仕事に満足感を感じる要因と不満足を感じる要因は全く別物であるとする考え方です。

具体的には以下のようなことです。

仕事に対して、やる気を増大させる動機付け要因

(1)やりがいのある仕事を通して達成感を味わえること(達成)

(2)達成した結果を上司や同僚に認められること(賞賛・承認)

(3)仕事の中に自己の知識や能力を活かせること(仕事そのもの)

(4)責任をもって仕事をまかされること(責任)

(5)仕事をとおして能力を向上させ、人間的に成長できること(成長)

仕事に対して、やる気を失う衛生要因

(1) 福利厚生

(2) 給与

(3) 処遇

(4) 作業条件

(5) 人間関係

(6) 会社の方針

(7) 管理・監督のあり方

 

この理論の特徴は、

衛生要因は解消しても満足を生むわけではなく不満を減らすだけの要因であるということです。

 

具体的にいうと、

「給与は上がると不満は減るが満足を生まない」ということです。

 

給与が上がれば瞬間的には嬉しいですが、すぐにそれに慣れてしまい、それだけの給与をもらうのが当たり前化してしまうのです。故に、やる気を上げる要因としては非常に弱い存在であると思います。衛生要因全てがこの「不満は減るが、満足を生まない」とされています。この理論に照らし合わせると社員のやる気を上げるのは人事評価制度を変えるのではなく、動機付け要因を実施することだということがわかります。

 

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最後にもう一つ、「社員の納得感を高めるため」に制度を変えたいということについて触れたいと思います。納得感のある人事評価制度にするために、現場の社員にインタビューしたことで、よくわかることがあります。

 

それは、社員の不満は「人事評価制度に対しての不満」では無いということなんです。

 

「ん?」と思った方もいらっしゃると思いますが、
この納得感がないというのはズバリ上司に対する不満です。

 

もっと具体的にいうと、 「この上司に評価されたくない」ということが不満を生み、
納得感を薄れさせてるのです。

 


制度をいくら変えても納得感は得られない
と理解した方が良いでしょう。

納得感の高い人事評価の本質は上司が部下にどれだけ信頼されているか?にかかっています。

 

 

実際に様々な会社を見てきましたが、信頼関係のある上司に評価されている社員で評価が悪かったとしてもほとんど不満はないです。「あの人がそう評価しているなら仕方がない」と納得しているんです。

 

したがって、納得感の高い人事評価制度を追求するのではなく、評価者(管理職)を育成することが先決ではないでしょうか。

 

 

皆様の人事評価制度の構築/改定の参考にしていただければ幸いです。