【連載企画】VOl.11『後継社長力』~事業承継を成功させるための「正しい順序」とは~
人事評価制度の限界
目次
解決策(1) 人事評価制度作成の手順1〜人事評価の目的とは何か?~
解決策(2)人事評価制度作成の手順2~人事評価制度の正しい運用法とは?~
▶解決策(1)人事評価制度作成の手順1
〜人事評価の目的とは何か?~
事業を承継した後継者が新たなカルチャーを構築し、未来を見据えた組織づくりをするために活用すべきなのが、人事評価制度であることは先に述べたとおりです。
人事評価制度とは、従業員の企業への貢献度合いや本人の能力をどのように待遇に反映するのかを整理し、明文化したものです。
しかし、人事評価制度が従業員の成長を促進させ、企業の成長にもつながるとする向きもありますが、あまり過剰な期待を寄せないほうが良いというのが、私の持論です。
実際に人材派遣会社のアデコが実施した人事評価制度に関する調査では、「人事評価制度に満足していますか」という質問に対して、「満足」もしくは「どちらかというと満足」と回答したのは約38%。「不満」もしくは「どちらかというと不満」との回答が約62%と
上回っています。
ほかにも、人事評価に関するアンケートをみると、「満足」に分類される回答は良くて半数程度に留まっており、経営者が思うほど人事評価に対する満足度は高くはないのです。
「パレートの法則」は、皆さんご存じかと思います。2:6:2の法則ともいわれますが、
どのような組織であっても
上位層(できる社員) 2割
中間層(普通の社員) 6割
下位層(できない社員)2割で会社が構成されています。
2割の「できる社員」は、もともと評価も高いので、人事評価(報酬)に満足しています。
一方で、2割の「できない社員」は評価が低く、報酬にも満足していません。
そして残りの6割の「普通の社員」の半分以上は、自分の評価について満足していないわけです。
報酬が増えれば不満は減るが「満足」にはつながらない
アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱した「ハーズバーグの二要因理論」は、仕事に対する満足と不満足を起こす要因に関する理論です。
ハーズバーグは、エンジニアと経理担当事務員を対象に、
「仕事上どんなことによって幸福と感じ、また満足に感じたか」
「どんなことによって不幸や不満を感じたか」という質問を行いました。その結果として分かったのは以下の2点です。
-
(1)従業員が「仕事に不満を感じるとき」は、その人の関心は自分たちの作業環境に向いている=衛生要因
-
(2)従業員が「仕事に満足を感じるとき」は、その人の関心は仕事そのものに向いている=動機づけ要因
ということです。
すなわち、(1)の衛生要因を解消すれば、(2)のような動機づけ要因が挙がるというわけではなく、「満足」に関わる要因(動機づけ要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別のものであるというわけです。
衛生要因、すなわち人事評価や報酬を上げてもある程度の不満は解消されるものの、直接的に仕事への動機づけ(=モチベーションの向上)にはつながらないということなのです。
福利厚生なども同じです。新卒採用などでよく、「学生は福利厚生の充実度を重視する」ということもいわれますが、福利厚生はあくまでも「不満要素(衛生要因)」であり、どんなに充実していようとも、それが仕事へのモチベーションにはつながりません。
ハーズバーグの図でいえば「動機づけ要因」は上司ができる仕事で、会社は「衛生要因」しか改善することはできません。
つまり、人事評価制度をつくる目的を「モチベーションアップ」「やる気向上」にしてはいけないということです。人事評価をうまく操作すれば、従業員のやる気につながるのではないか、一生懸命働いてくれるのではないかと期待はしないことです。あくまでも、「不満あり」というマイナスの状態から±0(普通)に戻す程度しか効果はありません。
そこを期待しても、終わりのない旅路へと迷い込んでしまうだけです。案外多くの経営者が勘違いするポイントでもあるので、人事評価を作成する前にまずは十分肝に銘じておきましょう。
▶解決策②人事評価制度作成の手順2
~人事評価制度の正しい運用法とは?~
続いて、なぜ現状の人事評価制度に対して不満を感じる人が多いのかについてお伝えしておきましょう。よくある不満と問題点、原因についての図にまとめています。
一番左の列が「不満の内容」で、中央が「人事評価の問題点」、そして右がその「原因」です。
まず注目していただきたいのが、左側の欄の上3つで
「どうやって評価されているのかわからない」
「頑張っているのに評価されないので頑張る意味がない」
「評価基準が不明瞭」などといった不満の内容が挙げられています。
なぜそのような不満を感じるのかというと、人事制度があってもうまく運用されていないためです。そしてうまく運用されていない原因の一つが、左側の欄の(1)評価項目が多すぎることにあります。
これまで私がコンサルに入った会社の中には、この評価項目が130もあったところがあって、毎年1回の査定の期間は、他の仕事が手につけられないほどの大仕事になると言っていました。
しかし、10人の部下がいる上司が、一人ひとりに対して130もの評価項目があったら、すべての人に、すべての項目をきちんと評価することなど実際は不可能です。
もはや人事評価制度を作ること自体が目的になってしまっている典型例です。
評価項目がたくさんあったほうが不公平感はないように思うかもしれませんが、項目が多すぎることでかえって「何が大事なのかがわからない」人事評価制度になってしまうのです。
だから、私はシンプルに5~10項目以内に収めるように伝えています。
大きくは「カルチャーの実践度合い」と「戦略の実行度合い」という2つを核とした人事評価に絞ることです。
以前明文化したカルチャー、例えば以下の項目に対して実践できているかを評価項目に入れます。
1.何をするにも5分前行動
2.守秘義務は絶対守れ
3.小さな納期も必ず守れ
4.小さな約束事こそ大事に守れ
また、「戦略の実行度合い」に関しては、会社や部署として毎年決められた戦略に対して、どの程度実行できたのかを評価することです。このようにシンプルにして上司などの評価しやすさを重視することが、人事評価制度の運用のしやすさにもつながるというわけです。
◯人事評価には経営者が「入れたい項目」を必ず入れる
また、人事評価制度は作ったものの、期待したような行動が起こらないこともあります。
その原因は、人事評価制度が経営戦略と紐づいていないためです。
「人事評価制度を導入する」ことが目的となってしまい、経営者と人事が連携を取れていないということがあります。そうならないために、評価項目に加えておきたいのが決定者である経営者が入れたいと考える項目です。
なぜなら、評価者と決定者(経営者)に大きな誤差がある(図の②)という問題が発生するためです。経営者が評価したい項目が反映されていない人事評価は、意味がありません。
経営者として大事にしたい事柄、従業員に常に意識してほしい事柄を「経営者の評価項目」として1つ必ず加えます。
例えば、経営者の評価として「チャレンジ精神」を加えてみます。チャレンジ精神とは、営業部署であれば新規顧客の開拓であり、製造部署であれば新製品の試作や研究など、事務職でも業務の改善や経理のDX化の推進などの提案などもあるでしょう。従来の仕事以外の部分で、新しいことにチャレンジしていこうとする人を評価するわけです。
なぜ、経営者視点で入れるのがよいかといえば、「チャレンジしたことは必ずしも成果につながるとは限らない」からです。新規顧客の開拓をしても、必ず新たな受注が生まれるわけではありませんし、受注があったとしても新規の取引で大きな発注を行う会社はそう多くはありません。
であれば、既存の顧客との取引を重視したほうが営業成績も安定します。しかし、既存顧客だけでは将来的な企業の発展はありえません。そうしたチャレンジ精神をきちんと評価するカルチャーの会社であることを経営者として推奨するわけです。
次回も人事評価の続きをご紹介します。
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