【連載企画】VOl.12『後継社長力』~事業承継を成功させるための「正しい順序」とは~
後継社長は次世代幹部をどう選ぶべきか?
目次
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人事評価に対する納得感の醸成には評価面談が必要
自分のカルチャーに一致する人材が評価されるよう制度を変革
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解決策(3) 次世代幹部を選び、育成する
次世代幹部の育成に必要な仕事と環境、教育
課題 将来を見据えない近視眼的な採用になってしまう
▶人事評価に対する納得感の醸成には評価面談が必要
本論とは話が逸れますが、人事評価制度の活用について少し触れておきましょう。
人事評価の結果、上司の評価と自己の評価の間にギャップを生じ、フィードバック面談等で不満を示す従業員は、どの企業においても一定数存在します。理想的なのは上司の評価も自己評価も共に高い、あるいは自己評価よりも上司の評価が高ければ、何の不満もなく、フィードバック面談はスムーズです。
また上司の評価、自己評価ともに低い場合、根本的な問題はあるとしても、面談そのものは淡々と進めることができるでしょう。
問題となるのは、自己評価に比べて上司の評価が低いと判断された場合です。実際はここがボリュームゾーンとなることがあります。にもかかわらず、結果だけ伝えて「来期は頑張りなさい」で終わってしまうのですが、不満を抱えたまま仕事を続けても効率は下がるだけ。来期頑張るためには、すり合わせてギャップを埋めていくことは大切です。フィードバック面談では以下の順番で話をします。
①今期の頑張りに対する感謝
②今期頑張ったことを聞く(褒める)
③今期成長したところを聞く(認める)
④今期ダメだったところ・改善点を聞く
⑤今期の評価結果を伝える
⑥結果の理由を述べる
⑦結果・理由に対しての感想を聞く
⑧来期に向けて、やること・頑張りたいことを聞く
⑨期待していることを伝える
自己評価に比べて上司の評価が低いという人に対しては、①~⑨の手順で話をする必要があります。
前回のハーズバーグ理論のなかでも説明したとおり、人事評価は衛生要因であり、あまり仕事の動機づけにはなりません。それでも、評価によって不満が大きくなったり、
やる気を下げたりしないようにフォローアップしておくことは重要なのです。
▶自分のカルチャーに一致する人材が評価されるよう制度を変革
バスの席割りを決める」には、先にも触れたとおり、人事評価の項目に、後継者が作成したカルチャーやパーパスを入れることです。
仕事のスキルや成果だけで人材を評価せず、カルチャーフィットを重視した評価制度を構築することです。
人事評価の項目にカルチャーを入れることの効果は、会社で働く人たちにカルチャーを強く意識づけることができる点が一つ。
カルチャーを大切にし、カルチャーに合わせた行動を取れる人の評価が上がり、逆にカルチャーに合わない人の評価は必然的に下がっていくことになります。
有能な若い世代の幹部候補に対し、人事評価制度をベースにして見極めつつ、育てていくことでこれまで社内で幅を利かせていた古参幹部たちと、将来の若手幹部候補たちが徐々に入れ替わることになります。つまり「バスの席割り」が替わってくるわけです。
このように、組織というものは放っておいて作れるものではなく、抜擢人事も含めて経営者がある程度はコントロールしつつ、作為的に作り上げていく必要があるわけです。
▶解決策(3) 次世代幹部を選び、育成する
人事評価の改正とともに実施しておきたいのが、先代経営者が選んだ古参幹部たちに変わって、これから後継者を支え未来に向けて共に成長していく次世代幹部たちを育成することです。
幹部候補となる人材を選ぶには、以下の3つの観点で見極めていく必要があります。
①カルチャーフィットしていること
②組織のステージに合わせること
③会社の戦略に合っていること
①のカルチャーフィットに関しては以前述べたとおり、幹部候補としては絶対条件となります。
②組織のステージとは、組織の年齢と規模によって企業の成長ステージと、成長を阻害する壁があります。「グレイナーモデル」とも呼ばれ、企業は5つの顕著な発展段階を経て
成長しますが、それぞれの段階で組織は壁を乗り越えるために、一定の変革と革命が必要となり、その壁を乗り越えることで新たな成長段階へと進む事ができるというものです。
後継者が事業を引き継ぐのは、図の第二段階「指揮命令による成長」から第三段階の「権限委譲による成長」へと向かうタイミングです。その成長を阻害するのが「自主性の危機」となります。
つまり、「自主性の危機」という壁を超えるための人材が、次世代幹部としてふさわしいことになります。
チャレンジ精神旺盛で、上からの指示を受けずとも自主的に行動できるような人材を見つけて幹部候補生に抜擢します。
また、③会社の戦略とは、今後の会社の成長目標の達成に必要なスキルや資質を持った人材です。①は必須となり、加えて②もしくは③に当てはまる人材を社内でスクリーニングして、幹部候補として育成していきます。
▶次世代幹部の育成に必要な仕事と環境、教育
続いて、選抜した幹部候補を育成する環境を作ります。いきなり古参幹部と入れ替えるような抜擢人事もありますが、中小企業の場合、定期的に新卒採用を行っておらず、若手社員の中には後輩や部下を持ったことがないケースもあります。そうした社員を急に幹部に引き上げるのは、さすがにリスクが大きいものです。
まずは小規模なチームを作ってリーダーの仕事、人を動かすことの難しさ、そして小さな失敗なども通じて学ばせることが大事です。
協力的な古参の幹部がいれば、その幹部のサポート役としてできる範囲でサブリーダーとして育成していくこともできます。
あるいは、部署内に新たに小さなチームを作る方法もあります。
例えば、生産部門で工場長がすべてを取り仕切っている場合、在庫管理や工程管理などの一部の業務を切り出して工場長の業務から外し、幹部候補に2~3人程度の小さなチームを任せます。
初めて部下を持った場合、伝えたり教えたりするとの難しさを経験したり、率先垂範しなければ部下は動いてくれないなど、実際に経験することが大事です。
同時に、将来を期待していることを明確に伝え、成長できる仕事と教育(研修)を行います。また同期の若手の幹部候補生をライバルとして切磋琢磨して成長していける環境を整えます。
さらに、こうした経験を成長につなげ、次の業務に経験を生かすためには「経験学習」のサイクルが必要となります。経験学習とは、経験による成功・失敗要因を振り返り、現在・未来の問題により良く対処する再現性を高めることで、具体的には以下の4つを繰り返すことです。
(1)現場での実践
(2)経験の蓄積
(3)振り返り
(4)概念化
現場に立ち、経験を蓄積するだけでなく、経験を内省的に振り返り、さらにその中で
「自分が行動したらもっとうまくいったのではないか?」などの気づきを自ら概念化。
さらに次の機会でその気づきを実験的に試してみるというサイクルです。
そして、何よりも大事なのは、育成する幹部候補たちこそが、今会社で求めている人材の象徴的な存在であることを社内にしっかりと伝えていくことです。
「バスの席に座る」べき人材像はどのような人たちなのかが、幹部候補たちを通じて明確になり、周囲にも大きく影響を与えることになるからです。
▶課題 将来を見据えない近視眼的な採用になってしまう
カルチャーに関する項目に入れた人事評価制度を導入したことで、徐々にカルチャーフィットしない人、旧来のやり方に固執する幹部たちへの評価が下がっていきます。
例えば100人の従業員がいて、徐々にカルチャーが浸透していくことで、そのうち6割がカルチャーフィットするようになるとカルチャーにフィットしない人たちはだんだん居づらくなります。
さらに、新卒採用も含めてカルチャーを重視した採用を進めていくことで、カルチャーフィットする人としない人の割合が6対4から7対3へと近づいてくると、カルチャーに合わない社員は次々と退職していきます。
また、例えば10人の幹部がいて5人がまだカルチャーフィットしないのであれば、カルチャーフィットした幹部を新たに5人増やして10対5という構図をつくることで、意思決定が大きく変わります。
次回は採用についてご紹介します。
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