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バルサ式にみる「未来を育てる構造」──即戦力と内部育成の矛盾をどう設計するか

バルサ式にみる「未来を育てる構造」──即戦力と内部育成の矛盾をどう設計するか

経営者がもっとも折れそうになる瞬間のひとつは、
「誰も育たない」「このままでは未来が作れない」という閉塞感に直面した時だ。
そこから生まれる衝動は、“外からスターを買って解決したくなる気持ち”である。

だが、この衝動こそがズレの出発点だ。

外部スターは即効性がある。
しかし、「未来」を作るのはつねに内部育成でしかない。
この“短期の勝利と長期の未来づくり”という矛盾を、どう設計するか。
ここに、経営の本質がある。

価値観:バルサが示す「勝ち方より、勝ち方を継承すること」

スペインの名門・FCバルセロナには、
“勝ちながら育て、育てながら勝つ”という稀有な哲学がある。
彼らは外からスターを買うのではなく、
10代のうちからクラブ哲学を叩き込み、
内部に「未来のメッシ」を育ててきた。

重要なのは、メッシを“買う”クラブはあっても、
メッシを“育てられる”クラブはほとんどないということだ。

経営もまったく同じ構造である。

未来をつくるのは、高額で雇った「即戦力の外国人助っ人」ではない。
自社の価値観・勝ち方・言語を理解し、次世代へ継承できる内部人材である。

ここに、企業の未来を左右する価値観の核がある。

前提:スター採用 vs 内部育成という“対立”は誤解である

多くの企業で起きているズレは、
「スター採用か、内部育成か」という二項対立の思考である。

だが、これは誤った前提だ。

  • スターは短期の突破力

  • 内部育成は長期の持続力

両者は対立ではなく、“時間軸の違い”にすぎない。
問題は、どちらを正しいとするかではなく、
この二つの矛盾をどう設計し、どう並存させるかである。

バルサが強かった理由は、
スターの力を適度に借りつつも、
“クラブの未来は内部育成がつくる”という一貫した前提を崩さなかったからだ。

企業にもこれと同じ前提設計が求められる。

構造:未来をつくる「三つの設計」

① 哲学の一貫性 ― 勝ち方を定義し、全員に浸透させる

バルサには「ポゼッション」という明確な勝ち方がある。
トップも下部組織も同じスタイルで戦う。

企業で言えば、
セブン-イレブンの「売りたいものではなく、売れるものを売る」という顧客起点の哲学と同じだ。

勝ち方の規律が揺らがない組織は、勝ちを再現できる。
逆に「安さで勝つ」「品質で勝つ」「根性で勝つ」など、
社員がバラバラな企業は、そもそも“同じピッチに立てていない”。

哲学の一貫性をどう設計するかが、未来の基盤となる。


② カンテラ的仕組み ― 成功体験の連続性を設計する

バルサの下部組織(カンテラ)は、未来のメッシを育てる工場だ。
若手のうちからトップと同じ勝ち方の型を体に刻む。

企業でも同じ構造が必要だ。
若手に小プロジェクトを丸投げし、PL・BSを自分で作らせ、
“経営者ごっこ”を何度も経験させる。

成功と失敗を積み重ねることで、
将来の幹部が再現性ある勝ち方を身につける。

これは「経験を積ませる」ではなく、
成功体験を連続させる仕組みを設計するという話だ。


③ スターよりシステム ― 未来を残すのは構造である

スター採用が悪いのではない。
実際、変革期にはスターが劇的な突破口になることもある。

しかし、スターは劇薬であり、
効く時は効くが、副作用も強い。

未来を残すのはスターではなく、
哲学を共有し、勝ち方を継承する「内部システム」だ。

松下幸之助の言葉を借りれば、
「即戦力は時間を買えても、未来は買えない。」

未来は内部でしか作れない。
これは経営では避けることのできない構造的事実である。

問い:あなたの会社には「未来を育てる設計」があるか?

短期の勝利を求めるなら、スターを外から買えばいい。
だが、未来を担うのは内部育成である。

そして、未来づくりは経営者の“専業責任”だ。
誰も代わりにはできない。

ドラッカーは言う。
「未来を予測する最良の方法は、未来を創ることだ。」

孫正義氏の言葉も借りたい。
「志高く、腰低く、目は狂気。」

未来をつくるには、これくらいの狂気が本気で必要だ。


最後に問いを返したい。

あなたの会社には、
「メッシ級を育てられる仕組み」があるだろうか?

未来をつくる設計は、今日からつくれる。
経営者の一歩が、組織の10年後を決める。

 writing:ストロングポイント株式会社 代表取締役 加賀隼人 

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