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育成とは、情報を渡すことではなく、前提を設計すること

育成とは、情報を渡すことではなく、前提を設計すること 

毎年、数多くの新入社員研修を担当してきた。
10年以上にわたって、何百人という新人と向き合う中で、ある共通の課題に行き着いた。 

それは、「新人が迷うのは、能力ではなく前提が設計されていないからだ」ということだ。 

 

新入社員の多くは、次のような不安を口にする。 

「何から始めればいいかわからない」
「覚えることが多すぎて整理できない」
「現場で何を学べばいいのか、つながりが見えない」 

これらは、意欲の欠如ではない。
「知識がないと動けない世代」の特徴として、構造が不明な状態への不安が強いだけである。 

デジタルネイティブ世代にとって、“動く前に理解する”ことは生存戦略に近い。
彼らは常に「先に調べ、全体像をつかんでから行動する」という習慣を身につけている。 

だからこそ、彼らに必要なのは叱咤でも精神論でもない。
「行動するための地図」を最初に渡すことだ。 

 

育成の本質を「教育」ではなく「設計」として捉え直すと、構造が見えてくる。 

新人育成に求められる設計要件は、次の3つに整理できる。 

1.行動の前にインプット情報を提示すること(安心の設計)
2.長文ではなく、図解や構造で全体を理解させること(理解の設計)
3.長期ゴールを分解し、短期目標を細かく設定すること(達成の設計) 

この3つを組み込んだ育成構造こそが、「デジタルネイティブ世代に適した育成のカタチ」である。 

 

弊社では、この思想をもとに「新人育成プログラム」という仕組みを構築している。
それは単なるマニュアルではなく、「新人と現場が同じ構造を共有するための言語」である。 

たとえば――
・仮配属までの3つのゴールを定義し、学びを段階化する。
・全体像を図で示し、各部署の業務を可視化する。
・現場研修ごとに3つのゴールを設け、成果を見える化する。 

この構造を設けるだけで、現場と新人の間にあった「教える/教わる」のズレが減り、
双方が同じ地図の上で動けるようになる。 

 

育成を仕組みに落とすことで、次のような変化が生まれる。 

OJT担当者は「いつまでに何を教えるか」が明確になり、
新入社員は「自分が今どこにいるか」を理解しながら主体的に動ける。 

リソースの多い企業であれば、多層的な育成施策を展開すればいい。
だが、限られた人員で新人を迎える企業こそ、
育成の“仕組み”を整えることが最大の成果を生む。 

 

育成とは、知識の伝達ではない。
行動の前提を設計し、迷いを減らす仕事である。 

私たちが提供したいのは「教え方」ではなく、「育成という構造のデザイン」である。 

それは、どんな企業にも共通する問いに通じている。
――人は、どんな前提があれば、安心して成長できるのか。 

その問いに向き合うことこそ、
“新人を育てる”という営みの、本質的な出発点である。 

 writing:ストロングポイント株式会社 代表取締役 加賀隼人 

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