コラム 遅効性という構造 ──「続ける意味」が見えるのは、つねに事後である 2025.11.25 遅効性という構造 ──「続ける意味」が見えるのは、つねに事後である 若手社員の「続ける意味ってあるんですか?」という問いは、表面的には精神論への抵抗に見える。 しかし実際に露呈しているのは、「意味は事前に存在するものだ」という前提である。 一方、多くのベテランは逆の世界観で動いている。意味とは、行動の後から立ち上がる遅効性の現象であり、両者のズレは、根性論と効率論の対立のように見えても、実際には意味生成の時間構造の違いに過ぎない。 現代の働き方は、最短距離・最大効率を前提にしている。 しかし、信頼形成や判断力、直感や仕事勘のようなものは、投入した時間に比例してのみ蓄積する遅効性の資源であり、どれだけ最適化してもショートカットできない。 ここに、構造的な矛盾が生じる。早く成果を出したい。しかし成果を支える土台は時間でしか醸成されない。この二項の同時達成が不可能な構造そのものが、多くの若手に苦しみを生むのである。 自身の経験を振り返ってみる。 飛び込み営業、無数の拒絶、そして3年間で3,000社の開拓。当時は意味不明だった時間が、後年になって仕事観や胆力、直感、顧客理解など、無数の基礎体力として姿を現した。 これは個人の根性物語ではなく、遅効性の構造という普遍モデルの発現である。 意味は、投入の瞬間には見えない。反復と蓄積が一定量を超えたとき、急に形になる。そのタイムラグを生き抜けるかどうかが、キャリアの分岐点になる。 70代の創業社長の「なりふり構わず、生き延びろ」という言葉も、要するに遅効性の作用が効き始めるまで離脱するな、という構造的示唆であった。 効率=即効性、努力=遅効性。 この二項は一見対立している。しかし実際には、経営者が扱うべきはどちらを選ぶかではなく、即効性で成果を追いながら、遅効性を蓄積し続けるという矛盾を設計することである。 すぐに成果が出る領域と、時間をかけないと成果が出ない領域を混同せず、別々に運用することこそが経営設計の核心である。 冒頭の問いに改めて向き合いたい。 「続ける意味はあるのか?」 意味は続けている最中には見えない。しかし、一定の地点を超えたとき、突然輪郭を持ちはじめる。それは経験則ではなく、意味生成の構造そのものだ。 経営者として問われるのは、すぐに成果を求める圧力の中で、どの遅効性の領域を意図して抱え、育てているかという選択である。その選択こそが、未来の組織の強度を決める。 writing:ストロングポイント株式会社 代表取締役 加賀隼人 Tweet Share Hatena Pocket RSS feedly Pin it 投稿者: adminコラムコメント: 0 「考えろ」という指示が届かない理由 ― 前提を問い直...