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遅効性という構造 ──「続ける意味」が見えるのは、つねに事後である

遅効性という構造 ──「続ける意味」が見えるのは、つねに事後である

若手社員の「続ける意味ってあるんですか?」という問いは、表面的には精神論への抵抗に見える。

しかし実際に露呈しているのは、「意味は事前に存在するものだ」という前提である。

一方、多くのベテランは逆の世界観で動いている。
意味とは、行動の後から立ち上がる遅効性の現象であり、両者のズレは、根性論と効率論の対立のように見えても、実際には意味生成の時間構造の違いに過ぎない。

現代の働き方は、最短距離・最大効率を前提にしている。

しかし、信頼形成や判断力、直感や仕事勘のようなものは、投入した時間に比例してのみ蓄積する遅効性の資源であり、どれだけ最適化してもショートカットできない。

ここに、構造的な矛盾が生じる。
早く成果を出したい。しかし成果を支える土台は時間でしか醸成されない。
この二項の同時達成が不可能な構造そのものが、多くの若手に苦しみを生むのである。

自身の経験を振り返ってみる。

飛び込み営業、無数の拒絶、そして3年間で3,000社の開拓。
当時は意味不明だった時間が、後年になって仕事観や胆力、直感、顧客理解など、無数の基礎体力として姿を現した。

これは個人の根性物語ではなく、遅効性の構造という普遍モデルの発現である。

意味は、投入の瞬間には見えない。
反復と蓄積が一定量を超えたとき、急に形になる。
そのタイムラグを生き抜けるかどうかが、キャリアの分岐点になる。

70代の創業社長の「なりふり構わず、生き延びろ」という言葉も、要するに遅効性の作用が効き始めるまで離脱するな、という構造的示唆であった。

効率=即効性、努力=遅効性。

この二項は一見対立している。しかし実際には、経営者が扱うべきはどちらを選ぶかではなく、
即効性で成果を追いながら、遅効性を蓄積し続けるという矛盾を設計することである。

すぐに成果が出る領域と、時間をかけないと成果が出ない領域を混同せず、別々に運用することこそが経営設計の核心である。

冒頭の問いに改めて向き合いたい。

「続ける意味はあるのか?」

意味は続けている最中には見えない。
しかし、一定の地点を超えたとき、突然輪郭を持ちはじめる。
それは経験則ではなく、意味生成の構造そのものだ。

経営者として問われるのは、すぐに成果を求める圧力の中で、
どの遅効性の領域を意図して抱え、育てているかという選択である。
その選択こそが、未来の組織の強度を決める。

 writing:ストロングポイント株式会社 代表取締役 加賀隼人 

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