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目標という構造──数字が空気をつくり、空気が行動を決める

目標という構造──数字が空気をつくり、空気が行動を決める

目標とは、達成されてこそ意味がある。
しかし「意味がある目標」と「願望として掲げられた数字」は、外見が同じでも内部構造が全く違う。

表面的には“高い目標”を掲げる会社が立派に見える。
だが、実際に組織を動かしているのは数字そのものではなく、
その目標を社員が「達成できる」と感じているか、「どうせ無理」と感じているかという“空気”の側である。

私は多くの企業を見てきたが、組織を規定しているのは目標の高さではなく、
社員の7割が目標を達成しているかどうかという一点である。
この線を超えた組織では、自然と前向きな行動が生まれ、未達が続く組織では諦めが文化として固定化されていく。


1割しか達成していない会社では、達成者は特別扱いされ、
「自分には無理だ」
という諦めの構造が組織全体に広がる。
目標は神棚に飾られた“儀式の数字”になり、行動の源泉にはならない。

一方で、7割が達成している組織では、未達の社員に健全な焦りが生まれ、
その空気が自然なフィードバックとして作用する。
評価制度や説教よりも強く働くのは、実はこの“集団の圧力”である。

ここで外したい思い込みがある。
「高い目標こそ正しい」という前提だ。
挑戦的な数字が行動を促すこともあるが、
手が届かない目標は努力のふりをした“麻痺の構造”を生み、
社員の内部で負け癖を固定化させる毒になる。


私はかつて、10年連続で目標未達の企業に出会った。
前年比では成長していたが、毎年届かない数字を掲げ続けた結果、
“どうせ無理”という諦めが組織の深層に根を張っていた。

社長はこう言った。
「目標を低くすると社員が楽をする。だから高くするんだ」
しかし目標は、社員を苦しめるための数字ではない。
達成することで未来を描くための構造装置である。

松下幸之助も言う。
「企業経営は、できることを積み重ねることでしか伸びない」

2年未達なら3年目で見直す。
3年以上続くなら、その数字は未来をつくるどころか、
“現場を麻痺させる呪文”に変わっている。


もちろん、私は高い目標そのものを否定しているわけではない。
むしろ、本当に意味のある高い目標は、人を巻き込み、ワクワクを生む。

その違いを決めるのは、
「なぜこの数字に挑むのか」という物語と伝え方だ。

ある経営会議でのこと。
幹部たちは来期10億円の目標に、
「まあ現状の延長でいけそうですね」
と温度の低い反応を示していた。

そこで社長が静かに語った。
「組織がバラバラになりかけている。
このままでは一つになれない。だから来期は20億に挑みたい。
これは私だけの数字ではない。一緒に走ってほしい。」

その瞬間、場の空気が変わった。
営業は協業案を出し、製造は改善策を提案しはじめた。
数字ではなく“物語”が挑戦心に火をつけた瞬間だった。

数字に意味を与えるのは、経営者の言葉である。


個人目標も同じ構造だ。

ある若手社員が、高い目標を掲げて私に言った。
「どうしても達成したいんです。一緒に行ってもらえませんか?」

私は正直難しいと思ったが、その本気さに心を動かされた。
戦略を練り直し、他部署も巻き込み、全力で支援した結果、
彼は達成し、チーム全体の士気まで引き上がった。

人は、本気の熱に引っ張られる。
それは上司でも、社長でも同じだ。


目標設定の妥当性は、数字の高さでは決まらない。
「この目標なら一緒に達成したい」と誰かが心から思えるか。
ここに尽きる。

個人目標が孤立し、上司がフォローしたくならない。
組織目標が社長だけのものになり、幹部が動かない。
そんな数字は存在価値がない。

社員の7割達成という目安を持ちながら、
「この目標に一緒に挑みたい」と思わせる空気をどう設計するか。
それが組織の未来を決める。


今、貴社の目標はどうだろうか。
「この数字、一緒にやろう」と誰かが言いたくなる目標になっているだろうか。

もしそうでないなら、まず一度、
数字の“意味”を語る場をつくってほしい。
それだけで、組織の空気は静かに変わり始める。

目標は呪いではない。
仲間を巻き込み、未来を開く“構造”である。

 writing:ストロングポイント株式会社 代表取締役 加賀隼人 

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