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「意見」を聞くとは、情報を扱う設計を持つこと

「意見」を聞くとは、情報を扱う設計を持つこと

経営者から、こんな相談を受けることがある。
「社員からたくさんの意見が出てきたが、どこまで聞くべきか分からない」と。
確かに、新しいチームを率いる時期には、
“現場の声”という名の雑多な情報が一気に押し寄せてくる。
そこには真実もあれば、誤解もあり、時に意図的な操作すらある。
それをすべて鵜呑みにして動けば、組織は簡単に迷走する。
だが、無視すれば、信頼を失う。
この狭間で悩むリーダーは多い。

コンサルタントも同じだ。
我々の仕事もまた、「人の意見をどう扱うか」が本質にある。
しかし、その扱い方を間違えると、どれほど経験を積んでも成果にはたどり着けない。
なぜなら――人の発言は、事実ではなく構造を映すものだからだ。

人は、自分の都合と立場の中でしか語れない。
それは意図的な操作である場合もあれば、無意識の自己防衛であることもある。
「隠す」「取り繕う」「利用する」「思い込みで語る」――
これらは悪意ではなく、人間が持つ自然なバイアスの現れだ。
だからこそ、表面の言葉を信じることは、
“人を信じる”こととは違う。
人を信じるとは、その言葉の背後にある構造を理解しようとすることなのだ。

コンサルタントが現場の意見を扱うとき、私たちは“情報”を見ていない。
見ているのは、“情報がどの位置から発せられたか”である。
意見とは、立場・目的・恐れ・期待――そうした背景が生み出す座標情報であり、
その座標が交差したときに初めて、事実が立ち上がる。

だから我々は、発言をそのまま扱わない。
「誰が」「何のために」「どこから」発しているのかを常に検証する。
それは、裏を取る作業ではなく、構造を描く作業だ。

たとえば、
「◯◯さんが言っていた」という言葉が出たとき、
私たちはその発言の“経路”を追う。
多くの場合、途中で意図が変形している。
あるいは、「みんなが言っている」という主張。
その“みんな”の範囲を明確にすると、実際には数人であることがほとんどだ。
また、「データが示している」という主張も同様だ。
数値は中立ではない。測定方法が前提を決める。
データは事実ではなく、解釈の器にすぎない。

「ルールだから」「上の指示だから」という言葉も同じだ。
確認を取れば、たいていの場合“ルールではない”か、“上はそんな意図ではない”。
つまり、私たちは日々、**人の頭の中にある“仮の現実”**と向き合っているのだ。

重要なのは、「疑うこと」ではなく、「設計して聞くこと」だ。
一つの発言を信じるかどうかではなく、
それをどんな位置づけで扱うか――情報の階層設計を持つことが、
判断の質を決める。

優れたリーダーは、“情報の正しさ”を信じない。
信じるのは、“情報のつながり方”だ。
立場の異なる人たちの言葉を交差させ、その中に共通して浮かび上がる構造を読み取る。
そこに、事実よりも確かな「現実のパターン」が存在する。

これが、コンサルタントが現場で意見を扱うときの基本姿勢である。

最後に。
「人を信じる」と「情報を鵜呑みにする」は、似て非なる行為だ。
信じるとは、相手の言葉の中に“背景”を見ること。
鵜呑みにするとは、言葉の表層をそのまま“事実”とみなすこと。
前者は理解を深め、後者は判断を曇らせる。

これからの時代に必要なのは、
「正しい意見を探す力」ではなく、
「意見の構造を読み解く力」だ。

それを持つ人だけが、現場に埋もれた真実を掘り起こし、
組織を前に進めることができる。

 writing:ストロングポイント株式会社 代表取締役 加賀隼人 

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