「考えろ」という指示が届かない理由 ― 前提を問い直すための“設計”としての思考 ―
会議の現場では、「もっと考えて動け」という言葉がしばしば飛び交う。
だがその多くは、指示としては強いのに、意味としては曖昧だ。
受け取った側は「考えているつもり」だし、
言った側も「どう考えてほしいか」を説明できていない。
この食い違いが、組織の成長を止めてしまう。
では、そもそも仕事における「考える」とは何なのか。
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深く考えるとは、
いま当然だと思っている前提に、静かに疑問を差し込むことである。
多くのブレイクスルーは、
新しい情報よりも、
「本当にそうだろうか?」という一つの問いから生まれてきた。
人は“分かったつもり”で仕事を進めてしまう。
そのつもりのまま行動を増やしても、成果の構造は変わらない。
だからこそ、思考とは努力の量ではなく、
前提への眼差しの質によって決まるのだ。
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私が見てきた「考えることができる人」は、
行動の前に、必ず前提を一度こねている。
テレアポの常識が「9〜10 時」「17〜18 時」だった頃、
ある部下は「本当にそうなのか」と疑った。
彼は 8:30 という“誰も注目していない時間帯”に仮説を置き、実験した。
成果は出たが、重要なのは結果ではない。
“当然”から離れた場所に、自分で問いを置けたこと。
そこに思考の本質がある。
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ただし、前提を疑うという行為は、
ときに相手の意見を否定しているようにも見える。
だから組織では、正しい思考が摩擦を生み、関係性を壊してしまう。
そこで私は、現場に“会議のオキテ”という設計を入れる。
思考を個人のセンスに任せず、
前提を疑うための場を、仕組みとしてつくるためだ。
たとえばこんなルールだ。
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前提を疑う時間を、あらかじめ枠として設定する
— 時間が区切られれば、“否定”ではなく“作業”として扱える。
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ブレストでは誰も否定しないと明言する
— 発言の安全地帯があれば、思考は深まる。
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会議後に「文句を言わない」ことを決める
— 決定は会議の中で終わらせる。後出しの批判を許さない。
これは単なるルールではない。
思考の質を守るための“環境設計”だ。
深く考えるとは、孤独な作業ではなく、
組織全体で支えるべき営みなのである。
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売上が伸びないとき、
「努力が足りない」「工夫しろ」という言葉が飛ぶが、
問題の本質は努力量ではなく、
“売れているという前提”を疑っていないことにある。
分析やひらめきより先に、
前提そのものを揺らす問いを置けるか。
そこからしか構造は変わらない。
だから私は、会議という日常の中に小さな“訓練”を仕込む。
前提を疑うという行為を、
偶然ではなく、設計として実行できるようにするためだ。
*最後に
「考えて動け」が届かないと感じたとき、
まずは“前提を疑う余白”を会議に組み込んでみてほしい。
writing:ストロングポイント株式会社 代表取締役 加賀隼人