【連載企画】VOl.4『後継社長力』~事業承継を成功させるための「正しい順序」とは~
後継者が引き継ぎ前に理解しておきたい3つのポイント
目次
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経営者の仕事とは何かをきちんと理解する
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放っておいても組織は作れない
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やるべきことは順番が大事である
▶経営者の仕事とは何かをきちんと理解する
会社を引き継ぐ前から、後継者が意識しておきたいのが「経営者の仕事とは何か?」ということです。
実は多くの後継者が考える経営者の仕事は、「先代のやっていたことを継続する」ことであり、「先代で解決できなかったさまざまな問題に対処し解決すること」だと考えています。
もちろん、課題を解決することも大切ですが、それだけが経営者の仕事ではありませんし、あまりに細部にまで目を配りすぎてしまって、小さな課題に囚われ、煩わされてしまって他にやるべき、もっと大切なことに注力できないケースもあります。
社内や現場で起こる問題は山のようにあります。
例えば――
・「もう会社を辞めたい」という従業員の話。
・製品の品質にばらつきがあってお客さんからクレームが入った。
・営業部門で納期の厳しい受注があり製造現場から苦情があった・部署ごとの対立が激しくコミュニケーションが図れない等々……。
これらの際限ない問題の数々の声は、後継者が承継する前から耳にすることになります。「よし、では自分が会社を引き継いだら、こうした課題を解決していこう」と考えてしまいがちなのです。
しかし、いざ事業を承継して経営者になると、フルカバレッジに対応することなど無理だということに気が付きます。
経営者は本来監督であるべきで、組織づくりやリーダーとなる幹部の選出、勝つための戦略の立案などに注力すべきなのです。
もちろん、課題があれば解決を考えることもありますが、現場で対処できる問題は現場に任せたほうがスムーズに解決できる場合が多いものです。
会社の経営や業績を揺るがすような大きな問題には、もちろん対処する必要がありますが、それ以外の小さなことにまで頭を使ったり、首を突っ込んだりしていくことは得策ではなく、優先順位が違うというわけです。
◯過去の仕事に引っ張られずに、「未来のしごと」を考える
では、経営者にとって優先順位の高い仕事とは何でしょう。それは「未来のしごと」です。
会社のこれまでのさまざまな課題というのは、いってみれば「過去の仕事」です。
現在会社で起きている問題を解決するというのは、あくまでも過去の仕事といえます。
例えば、「既存製品の品質を高める」ことも大切ではありますが、それだけでは受注は増えませんし、現在の延長線上で商品開発をしても、経営が劇的に改善するほど顧客数は増えることはありません。
このような会社に従来からある問題を解決すれば会社が伸びると考えている後継者はけっこう多いのです。
「深化」と「探索」という両利きの経営を考え、特に経営者は新たにつくり出す仕事である「探索」のほうを考え、注力してくべきで、それがすなわち「未来のしごと」です。
ただし、「未来のしごと」を実際に作っていくには、そのタイミングも大切です。
社長に就任して早々から、後継者が「未来のしごと」に着手するのは相当ハードルが高いといえます。後ほど詳述しますが、後継社長としての取り組みには5つのステップがあって、
それぞれ順番に沿って進めていく必要があるからです。
だから私は、1年目の後継社長には、未来のしごとに関しては「今は意識しておくだけでもいい」と話をしています。
自分の会社を俯瞰して見た時、現在の課題(つまり過去の仕事)ばかりが目立って見えてしまうものですが、俯瞰しながらも意識の中に会社の未来像を見るように努めることです。
最初はぼんやりとしか見えてこないかもしれませんが、本書で解説していくステップを進めていくことで、やがて未来像がはっきりと明確化されていくはずだからです。
そして、「そのとき」が来れば、やるべきこと、やりかた、やる人も何の苦もなく実践に移せるようになります。
就任1年目は、未来に向けたシミュレーションの段階であることを肝に銘じておいてください。
▶放っておいても組織は作れない
先代社長がそれまで構築してきた組織をそのまま継承するのか、あるいは世代交代に合わせて組織を変革していこうと考えるのか、事業承継において後継者はその二者択一に迫られます。
従来の組織を承継するほうが、従業員にとってはやりやすいのかもしれませんが、私はあまり賛成しません。
いまある組織は、あくまでも先代経営者の時代に最適化された組織であり、未来に向けて最適化された組織ではないからです。ニーズの多様化、インターネットの普及、グローバル化、環境問題等、さまざまな経営環境の変化に対応していくことが企業に求められています。
そのためには、変化に対応できる柔軟な組織が必要となってきます。
未来を見据えた経営戦略と合わせて、組織を見直すこと。事業承継というリーダーの交代は、経営組織のあり方を見直すよい機会ともいえます。
日本企業は生産性が低いとか、スピード感に欠けるとよく言われますが、その一因が、古い体質の組織のあり方に問題があると感じています。
当然ながら、後継者も同じように違和感を持つものです。
経営者のワンマン型の組織から、後継者を中心とした幹部陣が一枚岩となり、後継者がリーダーシップを発揮しやすいようなフラット型の組織のほうが良いとも言われるようになりました。
どのような組織を作っていくのかは、経営者次第であり、業種業態によっても違うでしょうから一概には言えません。
ただし肝心なのは、何もせずに放っておいても、従業員は自ら仕事と役割を考えて働いてくれるということはあり得ないということです。
◯組織をリノベーションする
経営戦略として、マネジメントを担当する人材、それを管理する人材、さらにサポートする人材など組織で業務を円滑に進めるために、会社における指揮系統をひと目で分かるようにして、部署ごとの編成や部署同士の相互関係を明確にしなければ、組織は動かないものです。
もちろん、先代がこれまで続けてきた組織をすべて1から作り直すというわけではなく、あくまでもリノベーション、もしくはリフォームする形で作り変えていくわけですが、組織としての機能的な部分だけでなく、決裁や責任なども含めて役割を明確にしていく必要があるわけです。
実際に後継者に就任当初に話を聞くと、自分がやりたいと思っていることがなかなか実行できない理由の1つが、旧態依然とした組織や人事制度に起因すると感じています。
組織づくりの具体的な方法は後ほどで詳しく述べますが、後継者が従来の組織を大きく見直す場合、それによって不利益を被る既存の社員や役員は反発します。
例えば、これまでピラミッド組織だったものをフラット組織に変えようとしたら、それによって多くの役職が撤廃されます。
実際に肩書を失うことになる側の多くは、組織改革に反発をするでしょう。それでも、新しい組織というのは作為的に実行していかないと作ることはできないのです。
▶やるべきことは順番が大事である
さて、前回の後継者へと話を戻します。
江上社長は中期経営計画を立て
(①経営者の仕事とは何かをきちんと理解する)、
次世代の幹部候補となる若手を抜擢
(②放っておいても組織は作れない)という「未来のしごと」作りと組織の抜本的改革に、就任早々から取り組んできました。これらは後継者として必ず着手すべき仕事ですし、正しいことです。
しかし、結果としては1年経っても従業員や幹部は、江上社長が期待するような活躍を見せてくれませんでした。
むしろ一部の社員は江上社長に対して反感の意識を持つようにまでなってしまったのです。
それはなぜか。実は、江上社長はたった1つのことを間違えて実行していたからです。
それが、着手すべき順番です。
後継者として、どんなに正しいことをやろうとしても、その順番を間違えてしまうだけで、江上社長の失敗例のように実現することは難しくなります。
「従業員の給与や処遇について改善していきたい」
「教育制度を導入して従業員のスキルをアップしていきたい」
「中期経営計画を作って会社の方向性を指し示したい」
「主要事業の売上が落ちているので新規事業を開拓したい」
など、経営にはさまざまな課題があります。
では、どのような順序で課題を考え改善していくのかと言えば、多くの場合、後継者が目の前で感じた課題や、とりあえず自分でできそうな課題から着手してしまいがちなのです。
世の中には、多くの事業承継の関連書籍や経営指南の書籍があります。
そこに書かれていることはもちろん間違いではありませんし、後継者にとっても参考になる内容が豊富に書かれています。
しかし、いざ実行に移そうとしてもうまくいかない。あるいは実行に移しても従業員たちが動いてくれないことで、自分には経営者としての資質に欠けているのではないかと
自信を失ってしまう。そんな数々の後継者の相談に乗ってきました。
なぜ、うまくいかなかったのか?
それは江上社長同様に順序が間違えているからなのです。
次回はその順序の話からスタートします。
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