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【連載企画】VOl.3『後継社長力』~事業承継を成功させるための「正しい順序」とは~

後継者が考えるべき3つのこと


目次

  1. 失敗事例のエピソード

  2. トップダウンからボトムアップへ

  3. ボトムアップでは「経営者が何もしていない」と思われる?

  4. まずは人の感情を動かすことから

▶失敗事例のエピソード

後継者として考えるべきことについて解説する前に、まず事例から紹介していきましょう。

A社は中国地方に本社を置き、従業員200名超の企業です。製造業を中心に事業は多分野に渡ります。雇用、経済ともに地域の中核を成すコングロマリット型の企業です。5年ほど前に経営を引き継いだのが当時30代前半であった江上社長(仮名)。

大学進学を機に上京し、卒業後は都内の外資系大手証券会社に就職していました。

先代社長の高齢化が主な理由ですが、主力事業である製造分野において、年々受注が減少傾向にあり、グループ全体の業績が悪化していました。

そこで、先代社長がグループ会社を含めて一部の事業や子会社を売却し、同時に人員整理を実施したタイミングで、経営者を含めた幹部の一部も引退。江上社長を中心とした若い世代へと経営のバトンを託したのです。

江上社長が就任して、まず手掛けたのが中期経営計画の着手でした。中期経営計画の柱としたのは、1つは自社の市場シェアを高めること。

実はA社ではすでに、主力事業においては市場で6割という高いシェアを確保していましたが、会社全体としては売上が下がっていたこともあり、さらにシェアを高めていくことを目標としました。

そのために営業力の強化を掲げました。既存の取引先が抱える課題をキャッチアップして改善していくための提案型の営業体制を整えることです。同時にコスト競争力を強化し、入札等において他社よりも有利な見積もりを提案し、新規案件の受注につなげていこうという施策です。

▶トップダウンからボトムアップへ

もう1つが組織改革です、具体的にはトップダウンマネジメントからの脱却を掲げました。
これまで経営者や経営幹部など組織の上層部の意思決定した内容に基づいて従業員が動く「上意下達」によって組織がマネジメントされていました。創業から長い会社ですので、先代からトップダウンでやり続けてきたA社にとっては、大きな決断です。

トップダウン経営は、経営者からの意思を従業員にストレートに伝えられる点ではメリットがありました。

しかし、江上社長は、トップに言われたことしか現場が動かないことに対する危機感を持っていました。

これからは、ボトムアップ型によって現場で働く従業員のほうから意見を上げて経営層に提案し、従業員の一人ひとりが自立的に仕事に向き合うような組織に作り変えようと考えたわけです。

このように、事業および組織をこれまでよりも筋肉質にしていくことで、トップラインを上げていこうというのが、江上社長が立てた中期経営計画の柱です。

▶ボトムアップでは「経営者が何もしていない」と思われる?

中期経営計画の素案は江上社長が作成し、新たに若手のメンバーも加えた幹部に依頼して、それぞれの部門目標を設定させました。また、江上社長は金融には明るく財務面に対する知識はありましたが、製造についての専門知識がなかったため、現場の効率化や改善を、製造業に強いコンサルタントに依頼しました。

ところが1年経っても思うような成果が上がらなかったのです。江上社長が理想とするボトムアップ型の組織には程遠く、自立的になかなか動くことができていない。行動も遅く江上社長のペースには到底追いついていない状態でした。

組織改革のためには、人材育成へのテコ入れが必要だと感じた江上社長が、私のところに相談に来たのはそんな時期でした。

当時、江上社長はすっかり疲れ切って、経営者としての自信にも陰りが見えていました。

私は、江上社長が作成した中期経営計画を拝見しましたが、内容そのものは適切で何も問題はないと感じました。ただし、若手の幹部や従業員は、従来、トップダウンで仕事をしてきたため意識もスキルも身についておらず、レベルアップの必要性を感じました。

私が提案したのは、まずは幹部を含めた従業員たちへのヒヤリングです。幹部や従業員に実施したヒヤリングでは、以下のような回答がありました。

第1グループ
「江上社長がMBAで学んできた内容が難しすぎて理解できない」

「必要性はわかるが、日常業務が忙しいため、やる時間などない」

第2グループ
「今のままで大きな問題は無い。実行する理由がわからない」

「江上社長は『変化しないと会社が危ない』と言うが、業界でのシェアも高く今のままでも問題ないと感じている」

「『自分で考えろ』と言うが、江上社長自身は何をやっているんでしょうか?」

大きくはこの1か2のいずれかのグループに分けられます。
第1グループのほうは、能力的に江上社長の目指すものが理解できないというものです。

そして、理解できないので仕事上の優先順にも下がり「やっている時間などない」という結論に至り、江上社長が感じているとおりに物事が進まないわけです。

まずは第1グループの回答を踏まえて、階層別教育の導入を決めました。階層別教育とは、管理職や中堅社員、新入社員など、それぞれの階層に期待する能力の向上を図るための研修です。

特に、江上社長に交代してから、組織は大きく若返りしていますので、若手の幹部候補に向けてマネジメントを中心とした徹底した教育を行うことの必要性を感じました。
もちろん、現場においても、これまで階層別教育は行ったことがなかったとのことでしたので、ボトムアップ型の組織を作るために最低限の意識やスキルを身につける研修を行うことにしました。

▶まずは人の感情を動かすことから

もう一方の、第2グループはスキルというよりは、感情的な部分です。すなわち、新たなトップである江上社長に対する信頼感の欠如など、江上社長の新たな経営方針に対して、何となく懐疑的に見ているグループです。

社長就任時はまだ30代前半だったこともあり、江上社長なりに周囲に気を配りながら、自ら率先垂範で経営にあたっていましたが、ボトムアップ型の組織づくりのためには、幹部や従業員の一人ひとりが考えて行動しなければならず、現場レベルで江上社長の言うような行動に移すまでには、信頼感が醸成されていなかったということです。

特に、長年トップダウンで動いていた組織ですから、先代社長と比較すると、「自分で考えて行動しろ」という江上社長は、従業員からすると何もやっていないように感じてしまったのです。

先にも述べたとおり、江上社長が立てた中期経営計画そのものは、とても良くできていて実行の内容も私から見ればさほど難しいものではありません。日常業務にわずかにプラスαを加えれば実現可能な内容です。

しかし、実際には計画内容やスキル、能力以上にやっかいといえるのが、人の感情だったりします。

この人の感情を動かし、組織を動かしていくには、
①経営者の仕事とは何かをきちんと理解する、
②放っておいても組織は作れない、
③やるべきことは順番が大事である

という3つの経営者としての心得を理解しておく必要があります。

この3ポイントについて、次回からさらに解説していきます。

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