社員の定着化は “不満を減らす?満足を増やす?” ではない時代になった。
潜在転職者市場へアクセスが簡単になった
昔、転職サービスを提供している企業にコンサルしていた時の話。
そこで出ていたのが、潜在転職者にどのようにアクセスするか?転職マーケットでは、
顕在転職者:転職サイトに登録している方
潜在転職者:転職サイトに登録していないが、良い所があれば考えるという方
こんなデータがある。
20代の男性だと、顕在転職者は4.3%、潜在転職者は47.1%
20代だとサイト登録している人の10倍は“良い所があれば検討します”という状態である。
確かに、若いほど転職意欲は高い。
(出典:ビジネスマンの転職意識に関する調査NTTコム リサーチ と 日本経済新聞社 による共同企画調査)
転職支援をしている企業は、この47.1%にどうアプローチしていくか?が最重要課題。
一昔前は大々的なCMや広告などマス広告が中心であったが、そこへ低コストで
潜在転職者にアプローチできる方法が出てきた。
SNSを活用したダイレクトリクルーティングだ。
有名な所で上場企業であるウォンテッドリーなどのサービスがこれにあたる。
ダイレクトリクルーティングは潜在転職者に対して、求人情報をSNSで
流して興味関心を持たせる。
そして、面接ではなくまずは面談という形でお互いを理解して
気に入れば選考に入っていく。という流れになっている。
或いは、リファーラルリクルーティングといって、社員に友達を紹介してくれと
声を掛けて、友達を勧誘して採用に至るケースも増えている。
これも潜在転職者にアプローチをしている。
リファーラルリクルーティングは採用コストが安いので
特に中小企業・ベンチャー企業に多く見られる傾向だ。
このようなやり方が増え始めて、今まで転職に関心が低かった方も
転職情報に接する機会が増えている。
このような機会が増えることで人材の流動化がより加速している。
定着化は不満を減らすか?満足を増やすか?
退職理由は統計的には「人間関係・給与・働く環境」などがランキングの上位を占める。
例えば、リクナビのデータだと
(出典:転職理由と退職理由の本音ランキングBest10)
1位:上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった(23%)
2位:労働時間・環境が不満だった(14%)
3位:同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった(13%)
4位:給与が低かった(12%)
5位:仕事内容が面白くなかった(9%)
エン・ジャパンのデータ
(出典:8,600名に聞いた「退職のきっかけ」調査。―『エン転職』ユーザーアンケート調査 結果発表―)
これらのデータをモチベーション理論に当てはめてみる
①衛生要因:給与・労働環境・人間関係など
②動機づけ要因:仕事内容・達成感など
ちなみに、この理論は臨床心理学の権威でもあるアメリカの学者
フレデリック・ハーズバーグ氏が提唱した理論である。
この理論では人間は“仕事に満足感を感じる要因と不満足を感じる要因”があり、
全く別物であるとする考え方を提唱している。(二要因性)
動機づけ要因はやる気を増大させる。
衛生要因はやる気をなくす要因としている。
この理論はものすごくよく出来ている。
どういうことか。
私はこれを知るまで不満を解消すると満足を生むと思っていた。
しかし、ハーズバーグ氏はこれを否定している。
ようは、①衛生要因は不満を解消しても満足を生まないのである。
よく考えると確かにその通りだと思う。
給与はどこまで上がっても満足はしない。
ただし、不満はある程度解消できる。
そして、①衛生要因は全てを解消しても満足ではなく、不満が減るだけである。
不満の代表格はどこまで行っても満足を生み出せないのである。
一方で②動機づけ要因は満足を生み出すとされる。
内容を見るとほとんどが上司の仕事である。
上司によってここの充実度が変わる。
いい上司の部署で不満が出ないのは恐らく、仕事内容ややりがいなどで
満足度を高めているからだと思う。
不満が大きくなると退職の引き金になることが上記のアンケート結果からわかる。
よって、多くの経営者はこの不満(衛生要因)をある程度は解消する必要がある。
しかし、私は問題は別の所にあるように思う。
優秀な人の転職原因は?
コンサルティングの仕事を通して、多くの会社の社員と接点を持ってきた。
プロジェクトで接する多くの人が社内では選抜された優秀層である。
この優秀層から会社の不満でほとんど①衛生要因での不満を聞いたことがない。
恐らく、人事評価も高いし、働く環境も優遇されているのだと思う。
ただ、転職する人もいる。
「何が問題なんだ?」
詳しく話をすると共通的に聞くのが “成長の機会がない”、
“やりがいがない”、“飽きた”などである。
しかし、どうも歯切れが悪い。
掘り下げるとどうも違うようである。
最近よく聞く、エンゲージメントが原因ではないか?と思い始めた。
まずは、エンゲージメントとは何か?について解説する。
エンゲージメントの定義(出典:ウイルス・タワーズワトソン)
従業員の一人ひとりが企業の掲げる戦略・目標を適切に理解し、
自発的に自分の力を発揮する貢献意欲
と定義されている。
簡単に言うと“自発的に貢献意欲を持って、主体的に取り組んでいる”というイメージである。
優秀な社員のほとんどがこれに該当するのではないでしょうか?
最近、モチベーションよりエンゲージメントを高めることが重要ではないか?と
いう議論をよく耳にする。
何故ならば、モチベーションは業績に対して効果があるなどの文献は無いのに
対してエンゲージメントは2017年Gallup社の調査で、従業員エンゲージメントが
向上すると、業績貢献、離職防止・生産性向上や欠勤や事故の低減など
多くの効果があると明らかにしている。
(出典:経産省主催 経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会 第二回資料)
優秀層は総じてエンゲージメントが高く、自走している。
エンゲージメントが高いので、経営者からも評価が高いのだと思う。
一方でエンゲージメントが下がる要因として世界的に有名な
コンサルティング会社コーン・フェリーの柴田氏の書籍では
(出典:エンゲージメント経営)
社員エンゲージメントに相関が高いドライバーとして、以下を指している。
1位:顧客に提供する体験的価値への自信
2位:成果創出に向けた効果的な組織体制
3位:自社におけるキャリア目標達成の見込み
この中で優秀な人が辞める時、よく言うのが1位の“顧客に提供する体験的価値への自信”
平たく言うと、本当に役に立つ製品・商品・サービスを提供したいということだ。
転職する理由が不満でも、満足でもなく、
“本当に役立つもの・本当に必要とされるものを提供している自信”ということだ。
これを見た時に腹落ちした。
昨今、多くのベンチャー企業に転職する大企業の優秀な若手を見てきた。
必ずと言っていいほど、これを口にする。
新卒採用をしても、似たような話を聞くようになってきた。
そして、ある記事でこんな言葉があった。
「数字の経営から言葉の経営にシフトする」
今までは日本企業は数字の経営を行ってきた。
例えば、「来期は売上を120%伸ばそう」といったように。
しかし、このような目標を数値で管理する時代は終わっている。
「120%売上アップでは頑張れない」「自社のサービスで子どもたちを笑顔にしよう」の方が頑張れる。
「120%売上を伸ばそう」ではなく、「日本の全てのスタートアップの従業員が健康的にランチを取れる社会を作ろう(OKAN)」或いは「日本の全ての企業から無駄な会議をなくそう(キャスタービズ)」が増えている。
これを見た時に、こう思った。
この国では、単なる量や規模の成長がもう起きない。
勝手に頑張る労働者は存在しない。
頑張るには確かな理由が必要だ。
つまり、企業の経営の指針をこれからは数字ではなく言葉で作らなくてはいけなくなる。
その言葉は事業ドメインの再定義、もしくは“自社は何のために存在するのか?”を明確にすることではないかと。
これが出来なければ、せっかく育てた優秀層はエンゲージメントが下がり転職する機会に飲み込まれてしまう。